カンボジアにある小さな英会話スクールの大きな挑戦

構造的暴力が生み出す教育格差

2020/04/22
 
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私たちは故意に行っているわけでもないのに、未知の存在者を抑圧したり搾取したりしてしまうような不正義で不均衡な構造の中にいる。

この構造は教育機会の不平等をも生じている。

この構造のことを平和学の始祖・ガルトゥング「構造的暴力」と名付けた。(哲学者のアイリス・マリオン・ヤングは「構造的不正義」と呼んだ)

 

この記事では、教育機会の不平等の原因にもなっている構造的暴力(構造的不正義)そのものについて、またそれと教育との関連性を述べていきたい。

 

構造的暴力とは何か

平和学を生み出したガルトゥングは、この世界に存在する暴力を「直接的暴力」「文化的暴力」「構造的暴力」三つに区分した。

直接的暴力は私たちが普段イメージするような暴力のことで、殴ったり蹴ったりすることだったり銃などといった武器を使用したりすることを指す。次の文化的暴力は暴力そのものを正当化する力のことだ。国家などがこれにあたる。国家は自分の都合のよいように法律を作ったり解釈を変えたりすることができてしまうからだ。

最後に述べる構造的暴力がこの記事の主題である。私は学部時代、この構造的暴力を主題にして論文を書いたことがある。その論文で、私は構造的暴力をこのように説明した。

 

構造的暴力の「構造」とは主に「社会構造」を指す。構造的暴力の「暴力」とは、社会構造の中に存在してい
る人の一部が何らかの理由で不利益を被ってしまっている―言い換えるならば、構造が構造内の一部の人々を攻撃している状態のことを比喩している。

 

構造的暴力が生み出す教育機会の不均衡

ここで疑問なのが、「構造が構造内に存在している人々を攻撃している状態」とは何なのかということではないだろうか。

 

教育を例を出して説明しよう。

YouArt Academyがあるカンボジアには、まだ少なくない数のスラム街が存在している。

カンボジアにスラムが出現したのは内戦が終息してからだそうだ。

内戦が終息し国内が安定し平和になっていくにつれて世界各国からの不動産投資が急増し、土地の価格が上昇した。すると、家賃も全体的に上がってしまい、家賃が払えなくなってしまった家庭も出てきた。そういった人々が集住し、スラムが形成された。

一般的に、貧困層はそうでない層に比べて就学率(または学校のドロップアウト率)が高い傾向にある。

それは、子どもの将来に向けて投資する余裕などなく、一人でも多く働き手をつくらなければならないような切迫した環境にある。

 

そういった家庭を生み出してしまった原因はどこにあるのだろうか。土地の値段を吊り上げた世界の投資家たちだろうか?それとも投資を制限しなかった政府だろうか?はたまた教育を軽んじた各家庭にあるのか?

一言で、これが悪いとはいいがたい。それどころか全員に責任が分有されているとすら言える。

このように、構造の中で、それぞれの存在者が責任を分有し合って、特定の存在に帰責することが困難な状態、これこそが構造的暴力の正体である。

 

世界システムと構造的暴力

構造的暴力は国内にとどまらず国境をまたいで存在している。

これを明らかにしたのがウォーラーステインが提唱した『世界近代システム論』である。

ウォーラーステインの著書そのものは近代の帝国主義にまでさかのぼってシステムを論ずる大作だが、それを社会学者の山田信行が端的に説明しているのでそれを見ていこう。

 

世界システム論においては、国際分業において工業製品を提供する先進地域を「中核(core)」 、原料や一次産品を提供する発展途上地域を「周辺(periphery)」 4として位置づけ、世界システムにおける階層的な秩序を規定している。

それぞれの地域は、そこで生産される財や賃金水準によって特徴づけられ、それぞれ「中核性(coreness)」と「周辺性(peripherality)」を担う位置となる。

いうまでもなく、「中核性」は先端的な財と高賃金によって特徴づけられ、「周辺性」は標準化された後進的な財と低賃金によって特徴づけられる。つまり、中核と周辺とのあいだに、世界システムのガバナンス
(governance)に対する影響力において大きな差異が存在し、中核が世界システムのガバナンスに大きな影響力を行使する一方で、周辺が著しく自律性を剥奪された位置であることも明らかである。(山田 2012:16)

 

世界システム論の中では、相対的に発展している国や地域のことを「中核(もしくは中心・中央)」と定義し、発展途上の国や地域のことを「周辺(もしくは周縁)」と位置付けている。

たとえば、国家レベルで言えば日本は中央にあたるだろうし、逆にカンボジアは周縁となる。

カンボジア国内で見れば、中央はプノンペン、周縁は地方(特にモンドルキリ・ラタナキリなど)となるだろう。

 

この中央と周縁は相互に依存し合っている関係だが、そのパワーバランスは不均衡である。

ウォーラーステインは、その理由が帝国主義時代における植民地支配にあるとした。

そこからいわゆる先進国と途上国と呼ばれる存在が生まれ、帝国主義時代などとうに過ぎ去った今でも、中央(先進国)が世界のルールを定義づけている。

 

まとめ

今回は構造的暴力の概論と教育機会の関係、さらに大まかな世界システムの枠組みまで見ていった。

この世界にある大きな問題というのはたいてい背後に歪な構造がある。それを考えてことで、また見え方も変わってくるだろう。

 

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